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be with you [あなたと一緒に] 27-1 [SPEC]

ん? じょりじょり・・・。
なんだこの感触?

愛する平坂照雄先生の抱き枕がいつものようにふわふわしない。
堅い、あったかい。その上、微妙に動いてる。
息をしている、心臓の音がする。しかも、手がはえてる?
そんなはずはない。
気のせい、気のせい?

でも、この布団の感触、
自分のとも、未詳のとも違う気が・・・。
なら、ここはどこ?

とりあえず、この抱き枕の正体を確かめねば。

そっと、撫でてみよう。
やっぱりじょりじょりする。
ん? この上下する出っ張ったものは何?
むぎゅぅ。

「うっ!」

先生がしゃべった?
こっちを向いた?

なんだ、この状況?
イヤな、予感しかしない。

しょうがない、目を開けてみるか。

「せっ、せっ、瀬文さん?」

どう見ても自分から巻き付けた手と脚を放し慌てて離れる当麻。

どうして?
えーっと、昨夜は・・・。

「当麻、起きたのか?」

「起きたのかじゃないですよ!」

何で瀬文が隣に?
まさか?

当麻が勢いよく、布団を蹴飛ばした。

素早く起き上がり、ベッドの上に胡坐をかいて座る瀬文と
慌てて飛び起き、じたばたと動きまわる当麻。

ほっ、上着以外は全部着てる。
でも、純情可憐な乙女を布団に連れ込むなんてー。
この変態。ロリコン。エロハゲオヤジ!

「うるせぇ! 寒い!
 俺は変態でもロリコンでもハゲでもねぇ!」

オイッ、エロとオヤジは否定しねぇのかよ!
なんて突っ込んでる場合じゃないよな、あたし。
てか、何で考えてることバレたんだ?

「お前、考えてること全部声に出てるぞ」

「えっ?」

「そんなことより、あたし達って・・・。
 いえ、もしかして瀬文さんあたしに何かしました?」

「するかよ!」

「ホントに?」

「してねぇと言ったらしてねぇ!」

瀬文は避難するように眉をひそめてから溜め息を吐いた。

「それにしても、お前って・・・」

「んだと! 喧嘩売ろうてか?」

「まだ、何も言ってねえだだろ、殴るな。俺は退院したばかりだ傷が開く」

「もしかして何も覚えてないのか?」

「覚えてませんよ」

「なら、ここで俺とベッドで寝てる理由を聞きたいか?」

当麻の優秀過ぎる脳は「聞かない方がいい」という危険信号を発している。

「聞きたくないっす」

「そうか。じゃあ、言わないでおいてやる。
 だから、さっさと起きて仕事に行け!」

「えー、なんか上手くごまかされたような・・・、
 それに頭痛いし、休みたいっす」

「飲みすぎだ、知らん! とっとと未詳へ行け」

「瀬文さんは?」

「俺は療養中だ」

「自分ばっかずるいぃ~」

「ずるくねぇ!」

「でもー、スーツよれよれだし」

「それはいつものことだろ!」

「自分はちゃっかりと着替えてるじゃないですかー」

「当たり前だ、ここは俺の家だ。
 それとも何だ、俺に着替えさせて欲しかったのか?」

「そ、それは・・・」

瀬文の目があたしの顔だけをしっかりと見据えていることに気づいて
急に恥ずかしくなり、うつむいたまま反論することもできなかった。

頭上から振りおろされた大きな手に思わず身構えたが、
それは優しくあたしの髪を梳いた後、軽くポンと弾いて遠ざかっていった。

ハンガーに掛けられていた上着とコートを手に戻ってきた瀬文。
その顔に浮かぶ微笑みに耐えきれず仕事に行くとだけ告げる。

「じゃあな。係長によろしく言って・・・いや、待て。何も言うな。
 当麻、分かってるとは思うが余計なことは言うなよ。
 特に吉川には言うんじゃねぇぞ!」

玄関先でキャリーを手渡しながら瀬文が言った。
言うだけ言って、睨みつけるようなあたしの目を見て更に何かを言おうとしてさり気なく視線を逸らしたのは何故だ。

玄関のドアが閉じてしまうと薄かった空気がなんだか濃くなったような気がして、
大きく息を吸いこむと流れ込んだ酸素のせいかの頭の中の霧が晴れてゆく。

「そうか、あれは夢じゃなかったんだ」

小さく呟きながら、当麻は未詳へと歩き出した。


タグ:当麻 SPEC 瀬文
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be with you [あなたと一緒に] 26-3 [SPEC]

西日の温もりも残さず太陽が足早に姿を隠すと、コートの中にも容赦なく冬の澄んだ冷気が浸み込んでくる。

住宅街が近づくにつれ、周囲がどんどん静かになっていき、
通り過ぎた小さな公園には人影もなく、すっかり葉を落とした街路樹がざわざわと音立てる。
街灯のある信号のない交差点の角を曲がった時、瀬文が再びゆっくりと足を止めた。

「ふーん、単身者用のマンションってやつですか?」

そう言いながら当麻は目の前の建物を見上げる。
視線を元へ戻した先には、建物に背を向けて立つ瀬文の姿があった。

記憶の中の瀬文は、強く鋭くどこか人を寄せ付けない男だ。
なのに今、自分の目の前にいる男は頬こそ若干そげ落ちているものの、
どこか穏やかな顔をしていて、それは知っているようで知らない男のようだ。
うっかり吸い込まれてしまいそうな優しさの宿ったその瞳から逃げ出したい衝動に駆られた。

「瀬文さん、これで任務完了です。大人しく寝てて下さい」

だらりと敬礼をした時には足は既に今来た方向へと向いていた。
だが、逃げるように歩き出したその手を瀬文が掴んだ。

「待て! 係長からの命令ならまだ終わっちゃいねぇ」

「でも・・・」と当麻は続けた。
「ここから先は、あたしが踏み入れちゃいけない場所のような気がします」

「いいから、余計なこと考えないでちょっと来い」

当麻はひきずられるように瀬文の後を付いていく。
逃げなかったと言うよりは、不意に掴まれた手をどうしても振り解くことが出来なかったのだ。

コツコツという靴音が止まり、カチャリとドアの鍵が開く。
躊躇する間もなくキャリーと共に扉の中に押し込められた時には
当麻の胸の内は『ここまで来たからには、瀬文のプライベートでも観察してやるか』と開き直っていた。

靴を脱いで玄関を上がりつかつかと廊下を歩きだすと、
いつの間にかコートとスーツの上着を脱いだ瀬文が当麻の行方を遮るように立ちはだかった。

「おい、お前も脱げ。早く脱げ。すぐ脱げ」

「へっ! いきなりっすか。
 何すか。長いこと入院してて溜まってんすか? 欲求不満すか?」
 もしかして、係長のプレゼントってあたしっすか?
 初めてなのに、無理やりって、鬼っすね」

瀬文は何も言わず当麻のことを見つめるともなく見つめ、やがて脚元から上へと視線を這わせた。
そして、おもむろに当麻に近づくとゆっくりと耳元に顔を近付けて・・・。

「バカやろぉおーーー、何考えてんだーーー!!」

ひえっ! 突然の大声に当麻が肩をひそめた。

「だって・・・」

「だってもあさってもねぇ!
 大体、俺はそんな理由で女は抱かねぇ。
 それに、いくらお前が魚だって、今は料理する気もねぇ!
 そのきったねー、コート脱げって言ってんだよ!」

「やだなー。もう冗談ですってばー。
 瀬文さんに限ってそんなことする訳ないっつーか、
 大体、あたしのことなんて女だと思ってないの分かってますから。
 しかも、女なら間に合ってるしねぇ~」

コートを脱ぎながら、ぎこちなく笑う当麻に低い声が降ってきた。

「黙って、そこのソファにでも座ってろ!」

乱暴に言い放って、瀬文は寝室らしき部屋へと入っていった。

一人残された当麻は家の中を見渡してみた。
シンプルで無機質で無駄のない部屋。
瀬文みたいだ。と当麻は思った。

ゆっくりとソファに身を沈めると抱きしめられているような心地よさ
瀬文の匂いと無言の優しさに包み込まれていく自分を感じた。

そんな束の間の妄想を現実に引き戻したのは、ふと目をやった食器棚に並んだペアカップ。
SとTの文字。

「何考えてんだ、あたし?」

独り言に反応するように戻ってきた瀬文は、慣れた手つきで買ってきたものを冷蔵庫へ収めている。
一通り片づけを済ませた後で当麻の隣にどかりと座り込み、一息つくようにネクタイを緩めた。

「あたしを部屋まで連れてこなきゃいけないような係長の命令ってなんすか?」

「これだ」

テーブルの上に置かれた大きな紙袋から、大きめのリボンが結ばれた箱と小さな袋とシャンパンを1本を取り出した。

「俺の退院祝いだそうだ」

そう言いながら、箱を開けると20cm近くはあるホールケーキが出てきた。
雪のようなホワイトチョコとフルーツがふんだんに飾られている。

「二人で食べろと、そういうことだ」

「あたしも?」

「俺一人じゃ、食いきれないからお前に手伝ってもらえってことだろう」

「ふぅ~ん。そういうことなら手伝ってあげますけど。
 ん? これ何すかね?」

小さな袋を逆さにすると、中からポトリと何かが落ちた。

「3と9のキャンドル? さんきゅ~すか?」

「39歳だ」

「おっさんすか? おっさんすね」

「はっぴばーすで~ぇ~♪ とぅ~♪ たけ~るぅ~♪」

からかうように歌う当麻に瀬文が反撃に出る。

「うるせー! なんだ、その調子っぱずれた歌は!
 あれか、お前。味音痴だとは思ってたが、本物のオ・ン・チってやつか?」

「うっしゃーにゃ! ひとがせっかく歌ってやったのによぉ~」

「頼んでねぇ、むしろ聞きたくねぇ! だが、お前が・・・」

いつもの調子に戻ってくれたのは・・・と言おうとした話しの途中で立ち上がって、当麻は玄関口に置いてきたキャリーに向かい、すぐにパタパタと戻ってきた。
そして、綺麗にラッピングされた袋の中身をテーブルに並べ始めた。

「んー、たかまるぅ~」と言いながら次々と出てきたのは、
大福に桜餅、鍋焼きうどんに牛丼、飲み物や果物まで様々な食べ物の形をしたキャンドル。
瀬文がケーキを受け取りにいっている間に当麻が心を奪われていたのはこれだったのだ。

「これはあたしからのプレゼントってことで。
 お母さんには、和菓子。お父さんにはビールでどうですか?」

「俺にはないのか?」

「じゃあ、瀬文さんにはたこ焼きでも供えます」

「供えますって? 俺はまだ死んでねぇ」

「だって、これ。お供えキャンドルですから。
 ご両親の仏壇かお墓にでも供えて下さい。
 少なくともロウソクの炎が燃えている間は、いつも以上に思い出してあげて下さい。
 誰かがその人のことを覚えていれば、例えこの世界からいなくなっていても、
 その人は生きているんだとあたしは思います」

「当麻・・・」

「せっかくですから、シャンパン開けてケーキにキャンドル立てて電気消して、『ふぅ~』てのしましょうよ」

店のネーム入りのマッチを取り出し、3と9のキャンドルともう一つ変わった形のキャンドルにも火を着けた時、
後ろでコルク栓が抜けた音がポンと音をたてた。
瀬文の手からグラスに注がれたシャンパンからパチパチと弾けるように「天使の拍手」が聞こえ、美しい気泡が立ち上ってくる。

「なんだそのふにゃっと溶けたようなブサイクなもんは?」

「餃子っす。そんなことより早く電気消して下さい」

呆れ顔の瀬文は言われたままに灯りを落とし、手で払うように炎を消そうとした。

「ちょっと、線香じゃないんですから、手で消そうとしないで下さい。
 ふーってして下さいよー」

子供のように無邪気な顔をした当麻が、待ち遠しそうにキャンドルの炎と瀬文を交互に見つめている。

瀬文が炎を吹き消すとますます暗くなった室内に沈黙が広がる。

「瀬文さん? 電気・・・つけて・・・」

「なあ、当麻。このまま俺の話を聞いてくれ」

「どうして病院に顔も出さなかった? 電話にも出なかった? 俺を避けてたんだ?」

「別に避けてなんかいませんよ。
 忙しかったっつーか、わざわざ行く用もなかったし、話すこともなかっただけです」

「んなことより、係長の命令かなんか知らないですけどあたしなんかと誕生日祝ってていいんですか?
 親子3人で仲良く祝った方がいいでしょ?
 それとあそこのSとTのイニシャル入りのペアカップ、里子のSとたけ~るのTすか?」

からかうように食器棚の方を指さしながら笑う当麻のその目が本当は笑っていないのを薄明かりが隠した。

「余計なとこ見てんじゃねぇ! あれは後輩の結婚式で貰ったもんだ。だから捨てる訳にもいかず置いてあるだけだ。
 さとみのSとたかしのTだ。嘘だと思うなら後でカップの裏を見て見ろ!」

「ここでこんな風に話しをすることになったのは計算外だが、お前に病院に迎えに来させるように係長に頼んだのは俺だ。
 それと、青池や潤のことでこれ以上お前にあれこれ茶化されるのは我慢ならん。
 だから、今から俺が話すことを黙って聞け!」

当麻は返事の代わりにシャンパンの入ったグラスを一つ瀬文に手渡す。
ごくりと瀬文の喉仏が上下した。

それからは、静かに話し始める。
青池とのこと、潤のこと、二人への想い・・・何もかも包み隠さず全て話して聞かせた。

下を向いたまま聞いていた当麻が重い口を開く。

「誰よりも幸せになって欲しいと思ったのに。
 瀬文さんて哀しいくらい家族運がないっていうか・・・
 じゃあ、これは生まれて来られなかったその子の分です」

牛乳のパックの形をしたキャンドルを瀬文の掌にそっと乗せた。

「ああ・・・」

瀬文の頬を伝っていった一滴の涙がゆらめく灯りに照らされキラリと光る。

「瀬文さんはホントに泣き虫っすな」

まるで幼い子供にそうするように指先で髪の毛を不器用に撫でられ
当麻は鼓動に触れられでもしたように感覚を翻弄する眩暈に襲われた。

残りのシャンパンを煽ろうとした瀬文のグラスを当麻が今度は奪い取った。

「瀬文さん、怪我人なんすから残りはあたしが全部飲みます」

そう言って当麻は、グラスの中身を飲み干した。




タグ:当麻 SPEC 瀬文
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be with you [あなたと一緒に] 26-2 [SPEC]

冬の乾いた空気と夕暮れの雑踏の匂い、
忙しく行き交う人々に紛れながら、当麻の歩みに合わせ俺は少しゆっくりと歩いた。
俺の歩みに合わせるようにあいつは少し急いで歩いた。
俺たちは、確かに二人だった。

一瞬、目の前の色彩がズレを生じ混じり合い僅かに色を帯びる。
目の前のショーウィンドウに映った黒と赤、二人は同じ場所を見ていた。

視線がぶつかり合うように当麻と目が合った。
無意識に俺の手が当麻の手を探した。
繋いだ手だけが二人の行く先知っているのだと俺は思った。
だが、ショーウィンドウの扉が開き一瞬にして現実に引き戻される。
歩き出した。何もなかったように。

大通りを抜けたところで一旦立ち止った瀬文が自分を追い越して行こうとする当麻に声を掛けた。

「腹減ったろ。CBCでも行くか?」

想像に反して当麻は直ぐに首をぶんぶんと横に振った。

「行きません」

少し俯いたまま、きっぱりそう告げる。

「どうした? 餃子が嫌か? それとも俺と行くのが嫌なのか?」

「餃子は嫌じゃないです。けど真っ直ぐ家まで送り届けるようにって野々村係長の命令っすから」

「そうか、分かった」

諦めたように瀬文は頷き、野々村の言葉を思い出した。

「そういえば係長から何か預からなかったか?」

「これっすか?」

ポケットに手を入れ、クシャクシャに丸まった小さな紙切れを取り出した。

「おまえ・・・まあ、いい。よこせ」

そこには、何やら地図らしきものと場所を示しているのかハートが一つ書かれていた。

「ちょっと寄り道だ。行くぞ」

「もう、あたしの話し聞いてました?」

「おまえが上司の命令を守ると言うのなら黙って付いて来い、これも係長からの命令だ」

キャリーをひょいと担ごうとしてまだ治りきっていない傷の痛みに小さく呻いた。
それを呆れ顔で見ていた当麻がキャリーを奪い取る。

「どこへ行くんですか、せーぶーみーさん?」

当麻が付いてくるのを確認するように一度だけ振り向いた後、瀬文は再び無言で歩き出した。



瀬文はおよそ似会わない、お洒落な店の前で足を止めると
ボロボロのメモをチラリと確認しておもむろに中に入っていく。

当麻はといえば、そんな瀬文の後ろ姿・・・ではなく、
隣のこれまたお洒落な店の窓から覗くある物に目を奪われていた。

暫くして、大きな包みを抱えて出てきた瀬文はそこで待っているはずの当麻の姿がないことに焦った。

くそっ。どこへ消えた? まさか!
頬が強張るのが自分でも分かった。
頭の後ろに広がり始めていた不安と共に目に前の全てが色を失い、灰色に染まっていく。

「当麻~!」

思わず駈け出そうとしたその時、隣の店から出てきた当麻の姿が目に入った。
キョロキョロと辺りを見渡しながら可愛くラッピングされた紙袋を手にふにゃりと嬉しそうな顔をしている。

「あ、せぶ・・・」

「当麻! 勝手に消えるな!」

瀬文を呼びとめる声より当麻を怒鳴りつけた声の方が大きく、周りの通行人まで振り向いた。

「そんなに怒らなくても。ほら、みんな見てますから」

「頼むから、いなくなるな」

「何すか、それ?」

当麻は心の中心にある温かいものに触れられたようで、わざと乱暴な言葉で返す。

「それじゃあ、今度こそとっとと帰りますよ」

「おい! 待て!」

「あん? なんすか?」

「食糧ぐらい調達させろ」

「あたしなら、大丈夫っす」

「おまえのじゃねぇ。帰っても何もない。
 一ヵ月近くも入院してたんだ、あっても腐ってんだろうが」

「それも、そうっすね」

二人で次に目指したのはスーパーマーケットで、
試食コーナーごとに足が止まりかける当麻にイラつきながらも
楽しそうに食品を見て回る姿に瀬文は片頬を緩めた。






タグ:当麻 瀬文
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be with you [あなたと一緒に] 26-1 [SPEC]

「あ、瀬文くん?
 もう退院するの? 慌てなくてもいいんじゃない?」

「僕が行ければいいんだけど・・・あっ、そぅお?
 それなら、明日は当麻くんに行ってもらうから」

「えっ、今日の夕方? ちょっと早くない?」

「それじゃ、お店の場所は当麻くんに渡しとくから
 せめて僕からの退院祝い受けとって帰って。
 仲良くね。二人でね。食べてね。これは命令だからね」

電話の向こうで睨みを効かしているであろう瀬文の返事を聞かず野々村は電話を切った。

そこへ吉川と一緒に昼食に出かけていた当麻が戻ってきた。

「当麻く~ん。瀬文くんが今日退院するそうだから迎えに行ってくれる?」

「はっ? もう退院するんすか? 早くね?
 それに、めんどくさくないですか? 
 子供じゃあるまいし・・・てか、おっさんだし。
 一人で帰れるっしょ。殺しても死なないっつーの」

「これこれ・・・。そんなこと言わない」

「係長が行けばいいじゃないですかー」

「えっ、僕はちょっと・・・その用事が・・・」

「雅ちゃんすか? デートっすか?」

「ゴホン! あの当麻くん。
 瀬文くんのお見舞いに一度も行ってないよね」

「行きましたよ」

「だったら、どーして僕が瀬文くんにて渡したフルーツの籠盛りの籠だけがここにあるのかね?」
 行ってないよね? 食べちゃったんだよね。
 だから、今日ぐらい行ってもいいんじゃないの? 助けてもらった訳だし」

「そうやで、行ってやれ。そのぐらいしてもバチは当たらんでぇ」

と業を煮やした吉川が二人の会話に割って入った。

「分かりましたよー。行けばいいんでしょ、行けば」

「うんうん。定時前に出ていいからね。じゃあ、瀬文くんによろしく」

観念した様子の当麻に妙にご機嫌な野々村が小さなメモを手渡した。


その少し前、ある決心をした瀬文は海野を脅していた。

「海野。俺のことを『銀の杭でも打ち込まないと死なない』とか何とか言ってたらしいな。
 だったら、退院させろ!」

「当麻さんに聞いたんですね」

海野はいつもの如何わしい笑みを浮かべた。

「聞いてねぇ。とにかくすぐに退院させろ!」

「あなたの言うことはいちいちムチャクチャですね。
 そうですか・・・。ダメだと言っても無駄でしょうね。
 わかりました。その代わり・・・・・」

すっかり諦め顔の海野に退院の許可を得て、
上司である野々村に今日の夕方には退院するという報告とある頼みごとをしていた。


大きく赤い夕陽が幻想的な赤みを帯びて病室の中を照らし始めた頃、
当麻が冬の冴えた空気を張り付けてやってきた。

開けた扉の中に入るでもなく瀬文とは顔も合わせず当麻が口を開いた。

「お勤めご苦労様でした」

「おい、俺は出所する訳じゃねぇぞ!」

仏頂面を張り付けたまま、片眉をピクリと上げた瀬文にいつもの拳が飛んでくるに違いないと当麻が肩をすぼめていると

「わざわざ、来てもらって悪かったな」

と瀬文は驚いたことに素直に礼を言ったのである。

「どうかしちゃったんすか?」

「こんなところで喧嘩していても何も始まらんだろう」

「それはそうですけど・・・」

いつもとは様子の違う瀬文を当麻はどこか寂しく思った。


紙袋だけを片手に病室を出て行こうとする瀬文。

「荷物は?」

怪訝な顔で当麻が尋ねる。

「それなら、美鈴ちゃんが来て片付けていった」

「はぁ~っ? それなら迎えなんていらなかったじゃないですか?」

「そうかもしれん。だが・・・。べ、別にいいだろう。
 とにかく行くぞ!」

「お前の隣りにこうやって居ると何だか落ち着くな」

――ふっと洩らした言葉にどことなく気まずい思いで隣を見るとそこには確かに瀬文がいた。
  それだけのことなのにあたしは胸の鼓動を鎮める事が出来ない。

満ち足りた大らかな気持ちと光の記憶が当麻を包んだ。







取り敢えず、今回はここまででというか途中ですみません。
続きは早めにUPしますんで。

では、また。


タグ:当麻 SPEC 瀬文
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be with you [あなたと一緒に] 25 [SPEC]

里中から潤のことを聞かされてからというもの
瀬文は自分の中の何かが揺らぎ始めたのを感じていた。

こんな時、いつも傍にいてくれるはずの当麻にも相変わらず連絡が取れないまま
苛立ちとやるせなさが募る日々だけが過ぎて行った。


北風に押されるように当麻は病院の回転扉をぐっと強気に押して入り口をくぐると、
ガラガラとキャリーを引きずりながらそれに迷惑そうな人々には目もくれず
吹き抜けの広いロビーを通りぬけて行く。

病室に近づくにつれ、勢いの良かったその足取りは急に重くなり
ゆっくりと入口の横で立ち止った。

ふーっと大きく息を吐いてから、そっと空いたままの扉から中を覗き込むと
久しぶりに見る瀬文は髪が少し伸び、無精ひげが生えたままでまるで見知らぬ男のようだったが、
不意に浮かびあがる端正な顔は普段と変わりなく無表情で、少しばかり悲しげに眉間を寄せている。

いつもと違う姿に「誰だよ?」と一人突っ込んだだけで、病室には入らずそのまま立ち去ろうとした時、

目を閉じベッドに横たわったまま寝息をたたていた瀬文が
人の気配を感じたのか少しだけ瞼を開けた。

「里子か?」

その声を聞いてビクリとした当麻が足早に立ち去っていったのと入れ違うように青池里子が病室に入ってきた。

「タケール。生きてるか?」

パタパタと潤が付いてくるのを追いかけるように宮野も後から入ってくる。

「これ、オミアイよ」

「お見舞い。。。ですね」とすかさず宮野が突っ込んでいる間に
潤が瀬文のことを不思議そうに見ていた。

「潤ちゃん?」

「パパ?」

瀬文が潤の手を取りそっと握る。

「ちょっとちょっとー、何を勝手に! この人はパパじゃないの、潤」

「みゃーの、潤をお願い」

宮野に連れられて潤が病室を出て行くのを目で追う瀬文の視線上に青池が立ちはだかった。

「里子・・・」

「タケール。里中さんに聞いたんでしょ、潤のこと。
 あなたより仕事を選んだことも、子供が出来たこと言わなかったのも、
 あなたの子供が死んだこと黙ってたことも全部、私の意思。
 幾ら責められても謝るつもりはないわ」

「黙って俺の前から消えたこと、任務のためというなら仕方ない。
 今更責めるつもりはないと言ったろ。
 だがな、お前の幸せが俺の許には無かったというのならそれもいい。
 お前とは共に戦い、同じ歩幅で前に進み、全てをぶつけ合える
 そういう関係だと思っていたのは俺の勘違いなのか?
 子供まで一人で産もうとしたなんて、俺の何が悪かった・・・教えてくれ、里子」

「求めなければ気がすまないくせに、求められることに疲れて
 苦しくて、逃げたのよあなたから・・・。
 二人の関係を、あなたの想いを打ち砕いたのは私。
 だから子供のことは私の我が侭、あなたには何の責任もない」

「お前をそこまで・・・すまん。
 どういう形にせよ、いつかお前を失うかもしれないという不安があったのは確かだ。
 俺もどこかで分かっていたのかもしれんな」

瀬文は血の滲むような後悔が喉から漏れそうになるのを必死で飲み込んだ。
そして自分に出来ることは、もう何もないのだと悟った。

「潤があなたの子でも、そうじゃなくても
 もう元には戻れないし、戻りたいとも思わない。
 それは、タケールも同じでしょ」
 だから、前へ進んで! 捜一に行きなさい」
 
今回の事件の功績なのか、瀬文は捜査一課への異動の打診を受けていた。

公務員である以上、命令は絶対だ。
 無論辞令が下りればそれに従う。異動する気はないかと聞かれただけだ」

「タケール! あなたはあんな穴蔵にいるべきじゃない。
 刑事として活躍したくないのか?
 どっちにしても退官するまで、異動なしという訳にはいかない。
 私が潤を守りたいようにあなたにも守りたいものがあるのは分かる。
 けど、バディとして隣にいることだけが守ることじゃない」

「きっと・・・、これが里中さんが私の口からあなたに言わせたかったことだと思う」

瀬文にはその言葉が、なだめているようにも、罵っているようにも、必死で呼びかけているようにも聞こえた。

やがて、青池がその表情に笑顔をつくる。

「タケール。もうこの話は終わり。もう私たちのことは気にしないで。
 あたしだってまだ若いんだからいい人がいて、
 潤が気に行ってくれるなら結婚だってするかもしれないんだから」

「今度は、タケールとトゥーマがちゃんと話をする番ね」

「それが・・・当麻とは連絡も・・・」

「ん? トゥーマならさっきそこで見かけたけど」

「えっ?」という顔をした瀬文に背を向けた。

「じゃあ、トゥーマによろしく。ちゃんと前へ進むのよ」

ひらひらと手を振りながら青池は病室を出ていった。


談話室で待っていた宮野は自分の膝の上で眠ってしまった潤の髪を優しげに撫でていた。
瀬文との話を終えた、青池の姿を見つけると宮野は緩んでいた頬を引き締め
寝ている潤の顔を覗き込むようにしゃがんだ青池の耳元で囁いた。

Am I the only person you want?
(僕じゃダメですか?)

Do you think I deserve it?
(私でいいの?)

「過去から卒業して下さい。
 あなたも潤ちゃんも僕が幸せにしてみせます」

そう言う宮野に青池は肯定も否定もせず、チクリと痛んだ胸の痛みを抱えただ真っ直ぐ前を向いた。



『天』で里子さんに姿を消した理由も聞かず、
その時自分がどうしたのかも当時の気持ちも今の気持ちも何も言わなかった瀬文さん。
(ま、潤のことはさすがにすごーく気にしてたけど)
そのあたりのこと聞きたかったなーと思いまして・・・へへっ。

もうね、とっとと里子と宮野でくっついちまえよ!(笑)


では、また。


タグ:当麻 SPEC 瀬文
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be with you [あなたと一緒に] 24 [SPEC]

廊下から聞こえてくるのは
ワゴンで何かが運ばれていく音。看護師の話し声、見舞客の笑い声。
外を見ればすっかり葉を落とした木々達は寒そうだが、病室は日差しに包まれて温かかった。

病院での一日は、何度入院しても、どんなに慣れても退屈なもので
まして、ベッドの上とはいえ起き上がれるようになっては尚更だ。

あれから10日は経つというのに、一度も顔を出さないどころが電話にも出やしない。

「まったく・・・。当麻のヤロー、何をむくれてやがる」

誰に聞かせるともなく、瀬文は一人呟いていた。


大きめの靴音が病室の前で止まる。軽いノックの後、返事を待つこともなく扉が開いた。

「よう、調子はどうだ?」

相変わらずの人懐っこい笑顔で片手を歩く上げ、里中が中に入ってきた。

「先輩?」

精一杯背筋を伸ばし、瀬文はいつものように敬礼した。

「その様子なら大丈夫そうだな。けどな堅ぇんだよ、お前は。
 これ。お見舞いだ」

里中はフルーツの籠盛りをひょいと瀬文の視線に持ち上げる。

「はっ、ありがとうございます」

「ったく・・・。
 これは、お前にというより当麻ちゃんにだぞ」

ニヤリと片方の口角を上げ、サイドテーブルに籠を置きながら言葉を続ける。

「そういや、当麻ちゃんは? 今日はまだ来てないのか?」

「それが・・・」

「どうした?」

「ずっと顔も出さず、電話にも出ません」

「ふ~ん。どうしたんだろうな? あんなに心配してたのになー。
 知ってるか? 当麻ちゃんなー、お前が目を覚ますまで片時も離れなかったらしいぞ」

そう言えばと、瀬文は目を覚まし見た当麻の疲れた様子と目の下のクマを思い出していた。

「おまえ、何か余計なこと言わなかったか?」

「いえ、自分は別に・・・。ただ、当麻によれば自分の記憶が少し飛んでるようで」

「そうか。でもさすがに青池のことは覚えてるよな」

「はい」

「実は、あいつのことで話があってきた」

「里子の?」

「なあ、瀬文。
 当麻ちゃんの前で青池のこと『里子』って呼ぶのはやめとけよ」

「何ででありますか?」

「そんなこともわかんねぇようだから、お前は女にモテねぇんだよ」

里中の表情が軽い笑顔から真剣なものに変わる。

「瀬文、潤ちゃんのこともちろん知ってるよな。
 で、あの娘のことどう思ってる?」

「里子は、俺の子供ではないと言ってましたが」

「お前、その言葉を信じたのか?
 まあいい。これから俺の話すことを黙って聞け」」

「・・・」

「あのな、お前の前から姿を消してから暫くして
 あいつは自分が妊娠していることに気がついたそうだ。

「じゃあ、やっぱり潤は俺の・・・?」

「瀬文、ちょっと待て。話は最後まで聞け」

「あいつは、自分に宿る小さな命のことをお前に告げることなく
 一人で産んで育てる決心をした。

 定期健診で行った病院である女性と出会い、
 その人も自分と同じ選択をしたことを知った。

 二人は姉妹のように仲良くなり、悩みやお腹の父親のこと
 何でも話しあったらしい。

 その女性が、出産後、青池が付き添い退院した日に悲劇は起きた。
 不幸な交通事故だった。

 青池は大怪我こそしなかったが、お腹の子供を失った。
 女性の産んだ子供は無事だったが、その子は母親を失った。

 その女性は亡くなる直前、絶え絶えの息で自分の子供を青池に託したそうだ。
 その子供が潤ちゃんだ。 だから、潤ちゃんはお前の子供じゃねぇ」

「だが・・・、
 もしかしたら、青池は潤ちゃんを失ったお前の子供だと思って育ててきたのかもしれん」

瀬文は喉の奥が乾いてひりつくのを感じた。

里中の話に言葉を失う瀬文の眼差しは怯えの影さえ含んでいる。

「青池は絶対にお前には言うなと言っていたが、
 俺はお前には本当のことを知る権利も義務もあると思う。だから話した。
 でも、責任だなんだのと言い出すなよ。あいつはそんなこと望んじゃいねぇ。

 真実は時として残酷だ。だが、それを乗り越えなければ前には進めん。
 青池とちゃんと話せ。過去と向き合え。自分の気持ちに決着をつけろ!
 そして、二人ともいい加減に前へ進んで歩き出せ」

瀬文は、ただ黙って頷いた。

その夜、瀬文は現実が幻か解らぬまま、
木枯らし吹きさらされたよう冷えゆく心に孤独を感じた。

廃墟のような殺風景な檻の中・・・?
ここはどこだ?





SPECが存在しない世界で、潤ちゃんが瀬文さんの子供ではない理由、
色々と考えました。

映画の中で、里子は血液検査やDNDの鑑定結果を知るまでは
潤ちゃんを瀬文の子供と信じてたと思うんですよね。
だから、このお話の中でも他の男の子供にはしたくなかった。

で、ご都合主義と言われるかも知れませんがこういう理由になりました。

このことを知った瀬文さんはどうするんでしょうね?


では、また。



タグ:当麻 SPEC 瀬文
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be with you [あなたと一緒に] 23 [SPEC]

遠のく意識の中、叫声を聞いた・・・
いや、確かに聞いたような気がした。
なのにその声が誰のものなのかは分からない。

体は熱くて麻痺しているように動かないが、
それはまだ心臓が止まっていないということだ。
人間、そう簡単には死ねないらしい。

寄せては返す、波のように喪失感と穏やかな気持ちが交互に胸の中に広がっていく。
波音がざわざわと音を立てる度に、まるで何かが抜けだして行くようだ。


『ここはどこだ?』

はっ、としたように突然目を見開き、瀬文は2日振りに目を覚ました。

「誰だ、お前?」

目の前に立つ女が自分を見つめる視線を感じてに瀬文が声を発する。

「へっ? 瀬文さん?
 今日はエイプリルフールじゃないっすよ。そんな冗談笑えませんて・・・」

――頭、打ったか? 打ったのか? 打ちどころが悪かったのか? 
  まさか記憶喪失とか? な、バカな・・・。

戸惑う当麻をよそに瀬文は眉間を寄せて、何かぶつぶつと言いながら考え込んでいる。

「ぼさぼさ頭・・・、よれよれスーツ・・・、 赤いキャリー・・・、魚顔のブス・・・
 んでもって、餃子くせぇ! おま・・・当麻か?」

「そうっすよ。あたしの認識の仕方、大分失礼っすけどねー」

――良かった。少なくともあたしのことは忘れてないんだ。

「どうでもいいが、何だ! その目の下のクマ。いつも以上にブスだな」

と、さらに不貞腐れ気味の当麻に追い打ちを掛ける。

――あんたのこと心配であんまり寝てないんだろーが!

「うっさーにゃ、おみゃーは! 
 顔中、絆創膏だらけのヤツに言われたくないんすけど」

――まったく、この男はいつも満身創痍だ。

「ところで、俺は何故ここにいる?」

「ホントに覚えてないんですか? 事件のこと・・・?」 

――そりゃ、忘れたくもなるか・・・。
  
「そうじゃねぇ。ただ・・・」

「ただ?」

「何で撃たれたのか、浅倉の野郎やお前と何を話したのかが思い出せん」

「そうっすか。
 じゃあ、瀬文さん。これからあたしがする質問に答えて下さい」

「・・・ああ」

「瀬文さんの所属先は?」
「公安部公安第五課未詳事件特別対策係」

「海野って誰?」
「ここの医者」

「ニノマエ」
「知らん!」

「青池里子、青池潤」
「昔の女とその子供」

「へぇ~? 嫁と子供じゃ?」
「くだらなんこと言うならもう答えん!」

「すんません。続けていいっすか?」
「しょうがねぇ」

「SPEC」
「ん? 知らん!」

「里中さん」
「先輩」

「津田」
「知らん!」

「志村」
「後輩」

「これは?」
「知らん! 何だそれ?」

質問の最後に当麻が見せたのは、元は小さな仏像だった割れた木片だった。


『やっぱり・・・』

波動関数上の解を導き出すまでもなく、当麻の脳が答えを導き出していた。

あの世界の瀬文は目の前にいる瀬文に命を繋ぎ、廃墟のような殺風景な檻の中で、その命を終えたのかもしれない。
そして、あの時ずっと会いたかった『当麻沙綾』を掴まえて一緒にどこかへ行ったに違いない。
結局、目の前の瀬文は瀬文であって瀬文ではないということだ。

『どうせなら、あたしのこの記憶も消してけよ。バカ瀬文』

今はもう薄くなったロープで縛られた時についた手首の痕を見ながら当麻は一人納得するように頷いた。

「おい、当麻?」

「大丈夫、大事なことは忘れてません。ちょっと頭打っただけですよ。そのうち思い出しますって」

「そうか・・・」

瀬文が拍子抜けしたように呟いた。

「あ、いらないなら、これ貰っていいですか?」

握っていた木片を再び瀬文に見せる。

「どうするんだ、そんなもの?」

という瀬文の問いかけには返事をせず当麻はキャリーを引いて病室を後にした。

当麻が部屋を出るまでの間、瀬文の視線が途絶える事は無かった。
何故なのか瀬文は去っていく当麻の姿を見てふっと笑った。
それは当麻が見れば違和感を覚えるであろう程の屈託のない柔らかな笑顔だった。
だが、その方がきっと瀬文の本来の顔なのである。

現実の時間にすれば1年余りはあろうと言うのに、今では一瞬のことのように感じられる。と同時にこれは、
互いの命を預け、魂を分かち合い、全てを超越した固い絆で結ばれたあの世界の瀬文との関係の終わりの始まり。
当麻の胸は運命が流れて行く感覚と冷たい喪失感に包まれていくのだった。






せっかくいい感じになったのに、また振り出しに戻してどーする!
と怒られるかもしれませんねぇ。
でも、大丈夫この二人はいつか絶対に幸せになれるはず。
と信じて書き進めることにします。(笑)

では、また。

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be with you [あなたと一緒に] 22 [SPEC]

看護婦が一人後から入っていったきり、誰も通ることもなく
忘れられたようにひっそりとした薄暗い廊下。

当麻は椅子にもたれかかり、手術中のランプをただ見つめながら
無影灯に照らされているであろう瀬文を思い浮かべその無事を独り祈っていた。

靴音がせわしなく響いてくるのが聞こえても尚、当麻はランプから目を離さない。

「すまんのー、役に立てなくて・・・。で、瀬文はどうじゃい?」

吉川の問いかけにも力なく首を横に振る。

それ以上、掛ける言葉が見つからず吉川は静かに向いのイスに腰を下ろした。

当麻の姿は、瀬文の命と呼応するかのように時折うっすらと消えそうに滲んで
それは幻想と言うにはあまりにも奇妙な光景で吉川は思わず息を呑んだ。

当麻の姿がはっきりとその姿を取り戻した時、手術中のランプの灯りが消えた。

やがて、ストレッチャーに乗せられた瀬文と共に海野が出てきた。

「手術は成功しましたよ。後は本人の生命力の問題でしょう。
 普通の人ならねぇ。
 まぁ、でもこの人の場合、
 銀の杭でも打ち込まないと死なないんじゃないですか?」

「なんやと、もういっぺんいっみやがれ!」

今にも掴みかかりそうな吉川を怪しげな笑顔で諭しながら、
その一部は胸に刺さっており、
瀬文が握って離さなかったという小さな木片を当麻に見せた。

――これは・・・。きっと、あの時の・・・。

そう、瀬文が両親の墓の前で大事そうに懐にしまった小さな仏像なんだと当麻は思った。

吉川は当麻の眼に光が戻ったのを確認すると「今日は休んでいい」という野々村からの言葉を伝え、
「瀬文を頼んだぞ。また後でくる」とだけ言い残し帰っていった。


あれからどれくらいの時間が過ぎたのだろう。
時折、うなされるように呻き声を漏らすが瀬文の意識はまだ戻らない。
ただ生きているという証のようにベットサイドモニターの画面が規則正しく波形を刻む。

窓を少し開け外の景色を眺めると夕日はすっかり姿を消し、大きな月が浮かび始めていた。
いつの間にか季節は秋を過ぎていて、冷たく流れ込む夜気が当麻の頬を撫でる。

「とう・・・ま」

瀬文の手が当麻を求めて彷徨う。
その手を包み込むように当麻の手が触れた。

『ああ、あの時と同じだ』そう思った時、
瀬文の手が、そっと伸ばされて当麻の身体を抱き寄せた。

「会いたかった」

瀬文の微笑みは痛みに歪みながらも何処か懐かしげで
眩しそうに目を細めて当麻を見た。

じんわりとした体温が、まるで瀬文の存在そのもののように身体に染みてくる。
胸の鼓動が、瀬文にも聞こえるのではないかという位に大きく鳴っていた。
木枯らしに揺らされる窓のように、瀬文を手繰る指が震えたのを感じた。

いつしか盛大なイビキをかき、安心したように眠りについた瀬文を前に

「瀬文! 起きろ! 寝んな!」

咄嗟に出たのはそんな言葉で、自分に少しだけ笑ってしまい、
掴まれたままの手を強く握り返した。



面会時間も残り少なくなった頃、志村と美鈴が並んで歩いて来た。

「お兄ちゃん、瀬文さん大丈夫かな?」

「大丈夫だ、そんなに心配するな」

二人は、瀬文の病室の前で足を止め
何やら一人で悶えている吉川の姿を見つけた。

「どうしたんですか、吉川さん?」

「ああ、志村か。わし、あの二人の間には入れんわ」

扉を少しだけそっと開け、見て見ろとばかりに病室の中を指さす。
そこには、ベッドの傍らのイスに座り瀬文の胸元に顔を埋めるようにスヤスヤと眠る当麻の姿と
当麻の左手を思い切り掴んだまま眠っている瀬文の姿があった。

「とう...ま」

瀬文の掠れた譫言が聞こえ三人は一瞬びくりとした。
そして何も言わずに目を合わせ、軽く頷ずきあってまたそっと扉をしめた。

どこか暗い表情の男二人とは対照的にすっきりした表情の美鈴が話し始める。

「お兄ちゃん、そんなに落ち込まないでよ。ってか、とっくに振られてんじゃん」

「あーあ、三人とも失恋しちゃいましたね」

「えっ? わしは...別に...」

吉川が必死に手を横に振っている。

「ま、いいからいいから。
 帰ってビールでも飲みますか。
 三人で飲みますか・・・」

そう言う美鈴に引きずられるように三人は仲良く(?)帰って行った。





さて、このままの甘い雰囲気で結婚式に戻るのもありかもとも思いますけどね。
でも、それは大間違いかもしれませんよー。(笑)
まだ、解決されてないことあったような?(←何か企んでやがるだろ!)
という訳でもうちょっと続きます。

では、また。


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be with you [あなたと一緒に] 21-4 [SPEC]

暗闇の真ん中で再び目を閉じた。
あたしは一人また闇に包まれる。

死ぬことに恐れはない。
今では懐かしさすら感じる、あの『闇』に戻るだけだから。

どれ程そこにいて、どれくらいそこを漂っていたのか、
それはもう思い出せないほど遠い昔のことのようであり昨日のことのようにも思える。

そこで見た世界、自分がいない世界。
その世界で生きたいと願った、束の間でいいから、夢でもいいから・・・。
そんな夢を現実にしてくれた瀬文さんには感謝だ。

『さよなら、瀬文さん。そして、ありがとう・・・』

そう独り呟いた直後、銃声がして衝撃の代わりにドサリという音がした。

そして、もう一発銃声が響いた。

何が起こったのか分からなかった。
いや、本当は分かってたのかもしれない。

大きく息を吐き目を開ける。
最初はぼんやりと段々とハッキリとしていく視界が怖かった。

空に顔を向け、大きく息を吸い込むと
どこかで嗅いだことのある懐かしいような血のにおいが鼻をつく。

心の中で、何かが砕け散ってゆく。

襲ってきたのは手足の冷たさと震え、どうしようもない喉の渇き、そして・・・絶望。
じわじわと目のあたりが熱を持ち痛みだす。

目の前の黒い塊に血だまりに沈んでいった石原の姿が重なる。

そして後を追う為に自分に銃を向けた女の声が聞こえたような気がした。

「この人と一緒じゃなければ・・・、そうしなければ生きていけないから
 そこ以外に居場所なんてないのだから」

ああ・・・、ここもあたしにとってはもう『闇』なんだ。

そう思った瞬間、叫んでいた。

「瀬文さーん!」









まずいな……。そう瀬文が感じた時、セカイの銃が当麻に向けられた。

瀬文は僅かに人の気配を感じ、足元に目をやる。
螺旋階段でゴーグルが一瞬光った。

それを確認すると同時に瀬文はセカイと当麻の間へ飛び出す。
セカイが引き鉄を引いた。

直後、「バスッ」と遠くから一発の銃声が響き
セカイの額をまっすぐに貫いた。
更に、もう一発の銃弾がセカイの手にあるデバイスを砕く。

間髪おかず数発の銃弾がセカイの胸めがけて放たれ、セカイの身体が踊るように崩れ落ちる。

「瀬文ー!」

里中は瀬文に駆け寄ると頸動脈に指を当て厳しい顔を少しだけ緩め
瀬文の息があるのを確認して志村を呼ぶ。

「おーい、志村! 瀬文を頼む」

里中に呼ばれた志村が、「先輩ー!」と勢いよく駆けてゆく。

当麻は茫然と座り込んだままだ。

当麻に歩み寄った里中はしゃがみこみ、ロープを外しながらうつむく当麻の顔を覗き込む。

「当麻ちゃん、大丈夫か?」

「里中さん・・・」

今にも零れてしまいそうな程に潤んだ瞳の当麻が顔を上げた。
その二人の前を数人の隊員達によって運ばれていく瀬文。
当麻は瀬文の姿を目で追ったまま

「瀬文さんは?」

「大丈夫だ。
 あいつはそう簡単に死んだりしねーよ。
 大事な相棒を残していったりするようなヤツじゃない」

里中の大きな手が当麻の肩をぽんぽんとたたく。

当麻の瞳から、一滴の涙が落ちた。

程なくして瀬文を乗せた救急車のサイレンの音が遠ざかっていく。

「立てるか?」

「無理みたいっす」

少し照れたように当麻が答える。

「じゃ、しっかり捕まってろ」

里中が当麻を抱き上げ歩き出す。

「あれだな」

「えっ?」

「こんなとこ瀬文に見られたら、俺殺されるかもな?」

里中が人懐っこい目をして悪戯に笑う。

「里中さん・・・」

ふっと当麻が微笑んだ。

「おっ、やっと笑ったな当麻ちゃん」

「あいつはいっつもあんたの心配ばっかりしてたよ。
 まあ、本人には何にも言わないだろうがな。
 瀬文って男はそういうやつだ。
 だから、あいつの目がさめたら今度は思い切り心配してやってくれ」

「そうだ、青池さんは?」

「青池はSIROの連中が無事救出した。
 爆弾も処理したぞ! ま、処理班がだけどな。
 日本の警察なめんなよ。あははっ」

「さあ、病院・・・いや瀬文のとこ行くぞ」

「えっ?・・・はい」

二人を乗せた車は、朝焼けの迫る薄明かりの中を進んで行った。








事件の謎と結末はいかがでしたでしょうか?

やっと決着が着きました。(←なげーよ!)
でも、まだまだ結婚式にはつながりませんけどねぇ。(笑)

里中さんと会うたび当麻のことばっかり話してる瀬文さんとか
番外編で書いてみたら面白いかな?
とか、ゆっくり書く暇もないくせにいらんことばっかり思いつく今日この頃であります。

さて、次は少しは甘くなるんでしょうか?

では、また。





タグ:当麻 SPEC 瀬文
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be with you [あなたと一緒に] 21-3 [SPEC]

セカイの言葉に、当麻は何も言い返すことはしなかった。

瀬文は、首の後ろに冷たいものを感じて
その顔は赤から青へと色を変えていく。

「瀬文、いくらお前の精神力が強かろうがさすがにそれは無理か?」

「たとえどんな罪を背負っていようが、人一人の命は重い。
 今のお前に唯一無二の存在に銃を向け、そいつを殺す気持ちが分かるのか?」

「わからないねぇ」

「当麻、それともお前が瀬文を撃ってみるか?」

再び嘲笑を浮かべるセカイを当麻が受けて立つ。

「誰が、撃つかよ!
 瀬文はあたしの誇りだ!」

「少なくともおまえとは違う。
 人の為に死ねるんだよ。バカなんだよこの男は・・・。
 自分の命より守りたいものがてめぇにあんのか?
 何が先人類だ! 何がゲームだよ! 只の人殺しだ!
 てめぇは神なんかじゃねぇ」

「うるせぇ!
 お前が我々を語ることは赦さない。
 俺を語ることは赦さない。
 何も赦さない。
 赦さない・・・」

セカイの目には強い光がやどり、どす黒い怒りが支配している。

「瀬文、とっとと当麻を撃て!
 サクッと終わらせろ!」

「てめぇ、命なめてんじゃねぇぞ」

当麻が真っ直ぐに瀬文を見つめる。

「瀬文さん、刑事に私情は禁物です。もう一度、撃って下さい。
 きっとあたしが死ぬまでこいつのゲームは終わらない」

瀬文が真っ直ぐに当麻を見つめる。

「当麻、おまえ・・・俺に撃たれた記憶が・・・」

記憶があるのか? そう聞いた瀬文に小さく頷いた。

覚えているのか、あの日のことを?
覚えているのか、俺のことを?

記憶は愛だ。
俺は覚えている。
お前と出会ったこと。
共に過ごした日々を忘れることなどできない。

当麻の方はどんなところを記憶にとどめているのだろうか。
それらはどれだけ重なっているだろうか。
俺が当麻を大切に思う気持ちと同様に当麻も俺を大切と思っているだろうか。

「瀬文さん、あたし覚えてます。全部。
 ちゃんと駆けつけてくれたこと。
 約束を守ってくれたこと。
 そして、あたしを見つけてくれたこと。
 強く、強く掴まえてくれたこと・・・」

「とう・・・ま・・・」

「あたし思うんすよ。
 ひょっとしたら、あたしたち前世ってやつでも出会ってたかもしれないって。
 だからですかねぇ、何度だって瀬文さんとは会えるような気がするんですよ。
 瀬文さんに見つけてもらったおかげで、もう二度と会えないはずの人たちにも会えた。
 父上、母上、おばあさま、陽太・・・、
 係長、吉川さん、美鈴ちゃん、里中さん、みんなみんな・・・。
 嬉しかった・・・。だから・・・もう・・・いい」

「瀬文さん、すいません。また巻き込みます」

二人の視線は行き合い、静かに時は流れだす。

「どこにいようと必ず探し出す。
 だから、今度こそ来世で待ってろ」

「うっす」

そう言って、二人は微笑みを交わす。
同じ笑顔を浮かべて同じ思いを共有する。
あの日あの時、そうしたように・・・。

瀬文はゆっくりと銃口を当麻に向ける。

苦悩と恐怖で瀬文の心臓は大きく鼓動していた。
思い出が泡のように浮かんでは消え浮かんでは消え指が震える。

あの時の俺に出来た事はただ一つのことだけ。
最後まで戦い抜こうとする誇るべき友の虚ろな眼窩を見つめ続ける事だけだった。
今だってそうだ。何も変わらない。

なぜ、神はあえて片翼だけをもぎ取るのか?
なぜ、神は何度も試練を与えるのだ?
そんな問いに答えはきっとない。
運命というには諦めきれず
宿命というなら残酷だ。

瀬文の指が動こうとした時、当麻が反射的に目を閉じた。

風の音が意地悪く瀬文を囃したてると
雲と重なって消えていった当麻が目の前をよぎって瀬文の右目の奥が熱を帯びる。

「ぐ、ぐぐっ……。
 撃てん。もう二度と俺におまえは撃てん」

銃を下ろした瀬文が震える声で言う。

「随分と弱気だな。さっきの威勢はどこにいった?
 まあいい。それならそこで見てろ!」

セカイはそう言って、銃を一旦空に向けから照準を当麻に合わせた。

まずいな……。
急激に上昇してゆく意識レベルと共に
突如、脳裏に強い光が煌めく。

『ダッ』 と何かが動いた。

『パンッ』 と一発の銃声が響く。

瀬文の身体が当麻の前で崩れ落ちた。
当麻へと向かって伸ばされた手はすぐに力を失い
少し微笑んだまま静かに目を閉じた。












すいません、途中で・・・。
21はもう少しだけ続きます。
次回こそ決着つきます。

では、また。

タグ:当麻 SPEC 瀬文
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